VILLA IN AOYAMA

LAST UPDATE: 2006.07.01

青山高原の家

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山の愉しみ

一見何でもない山小屋である。しかし気が付けば、結果として竣工までまる2年を費やす事となった。事情としては、当初の計画ではRCで現在の倍の床面積の建物であったが、前施主の突然の死により、ご子息が計画を引き継がれたものの、大幅な計画変更を余儀なくされた。

親子といえども山(別荘)の楽しみ方は全く違う。しかしながら建築としての別荘の機能は、至って単純でいつの時代も変わりが無いと考える。雨露をしのぐだけでなく、窓ごしに山の景色を愉しみ、窓を開けて山の新鮮な空気を愉しむ等、山をそこに感じる事である。設計変更の過程は、前設計から無駄な部分をそぎ落とし、魅力ある部分だけを選択する作業であった。その為今回のプランでは、コンパクトながら広がりのある空間を実現できたと思う。

aoyama01.JPG  SITE.JPG 全景/配置図

敷地は三重県の山奥に位置し、近畿と中部地方の境で標高も高く、気候も厳しい。特に年中を通じて霧が多く、建物の軒下通気口やサッシ水切り下からでも湿気が重力に逆らって容赦なく進入してくる。しかし山は四季折々、本当に変化に富んだ表情を見せてくれる。眺望もきき、敷地面積としても十分にあるのだが、なにせ敷地の3/4以上が最大50度の斜面である。基礎工事の負担なども考慮し、頂部の平らな部分の木だけを伐採して建築する事になった。

余談であるが、この敷地は前面がロータリーの袋小路になっていて、この建物が建つまでは地元の若いカップル達の秘密の隠れ家でもあったらしい。施主の要望もあり居間の配置は北向きではあるが斜面側に決め、玄関側は開口部を少なく寡黙な表情とした。さらに秋には前面道路との間に植栽を施す予定で、将来的には緑にうずもれた文字通り隠れ家となる。

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居間からデッキテラスを望む/デッキテラス


敷地内の木は良く育っており、冬は人の目線から十分眺望がきくのであるが、夏は葉が茂って全く見通しがきかなくなる。その為計画当初より、屋根の上の展望台なるものが必要であると考えていた。しかし屋根の蓋を押し上げてよじ登るような物見台よりも、もっと内部空間と連続したものは出来ないかと思った。

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  2階多目的室見上げ/多目的室から展望テラスへ

典型的な別荘の動線計画として、狭いアプローチ・玄関をくぐるととたんにぱっと大自然のパノラマが広がるというものがある。今回はここにさらに光の要素を付加し、玄関から居間に入り水平に広がるデッキごしに緑を楽しんだ後、後ろを振り返ると天上から木のスリットごしに光がさんさんと差し込んでいる。そしてその光に導かれて2階多目的室へ。もう一度振り返り、外へと続く階段を上りガラスのハッチを開けると最後に遮る物の何も無い樹海のパノラマが広がるというストーリーを描いた。この最後の眺望は予測はしていたものの、テラスが出来て実際に確認できた時は正直ほっとした。

具体的にそのストーリーを形にする中で一番頭を悩ませたのは、居間の無柱空間の上にどうやって展望テラスとそこへ続く空間を載せるかであった。結局あくまで登り梁架構を基本とし、なるべくテラスの荷重を分散させる事と、薪ストーブの煙突掃除の便なども考え窓が斜めに突き出した形状にした。

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 展望テラス/断面図


この時木製サッシが風雨にさらされる為、この部分を全てアルミのプレートで覆う事にし、また窓の開閉もはね上げ式のハッチに機械用の油圧ダンパーを仕込んだ。ちょうどこの少し前に施主がハッチバックの車に新調した時、建築でもこのような窓が出来るはずだと思ったことがきっかけであった。結果、この部分だけ建築というよりは飛行機の操縦席のような印象がある。ハッチを全開にしてここでお茶でも飲んでもらいたいと、2階多目的室の端には流しを備え付けてある。

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  1階居間・薪ストーブ/2階多目的室・寝室2

内外装とも木の素材そのものを活かす仕上げとした。玄関回り・和室はシナ合板、居間は白壁に天上は杉小幅板、ダイニングと寝室はラーチ合板と、それぞれのエリアで使い分けている。床材は全て無垢のフローリングである。キッチンについては今回ステンレス曲げとシナ合板で特注した。調理機器をIHとし、シンクも一体成型とした為、ステンレスの一枚板が載っているだけのような、すっきりとした印象のものになった。風呂については緑を眺められる事を条件に位置を決定したが、面積的にはあまり取れない為、洗面所とガラスを隔てて1室として広く見せるように、また洗面から御影石カウンターを浴槽まで連続させる事により、一体感を出している。寝室については家族構成を基本にフレキシブルに考え、1階部分は天上いっぱいの引き戸による物入れによって仕切られ、2室としても使用可能である。2階寝室は畳敷きで子供部屋を想定しているが、客が来ても宿泊出来るようになっている。

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 キッチン/浴室

厳しい気候条件の中、今回湿気対策として風の通り道にも配慮した。谷から吹き上げる風を居間から2階の多目的室のトップライトへと自然に導くイメージを描いていたが、実際かなり通風は良く、夏場でももちろんクーラーは要らない。また冬の事も考え、屋根・外壁の十分な断熱、ペアガラス、薪ストーブ、さらにフローリングには床暖房を仕込んでいる。

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平面図
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立面・断面図

四季を通じて山を愉しむ。今回ここにある状況を最大限に享受する装置を心がけたが、この建物がこれからも、さらに代が代わっても愉しく使われることを願っている。