京都M邸リフォーム
京都市内のマンションの、防音スタジオ付住戸へのリフォームである。
施主は関西を中心に幅広くご活躍の声楽家で、以前から新しい生活と
音楽の為の場所を探しておられた。ところが、一般の新築マンションでは
防音の為の備えが無く、空間の自由度も低い等の理由から、中古マンション
を購入して思い通りの空間を造る事を決断された。
依頼の電話をいただき、早速現場を見に行った。
法規上の採光を得るために、隣地境界線に面しコーナーを欠き取ったような
L字型をした住戸であったが、隣地には高い建物も無く、見晴らしが良く
明るい部屋だった。3LDKに区切られた間仕切を取り払いさえすれば、
比較的自由な計画が出来るのでは?と思い、現場を後にした。
しかしいざ資料を整理して、設計してみると、それほどプランに自由度が
無い事が判って来た。まず要望された風水の制約であるが、まあこれは
いたしかたない。次に何といっても水廻りの位置の制約だ。配管は多少
振り回せるにしても、上下階を貫くパイプシャフトの位置だけは変えよう
が無い。今回の仕事では、このキッチンの縦排水管が一番の難題だった
かもしれない。横引き配管を床下に通そうと思えば床も上がるし、
天井裏もダクトやら梁やらで、もともと階高の低いマンションでは、
頑張れば頑張るほどに空間の体積は減っていく。
結局、出来た案の水廻りの位置は、以前のプランとそんなに変わらない。
しかしその中で、空間的に何が出来るのか?という事を考えた。
まず空間のエリア分けである。施主は大学で教鞭を取っておられるが、
自宅にもレッスンの為に生徒さんが来たり、他の来客も多い。そこで
L字型プランを生かして、片方のウイングをパブリックに、もう片方を
プライベートに分割した。
パブリックゾーンについてであるが、当初は玄関ホールにサロンのような
空間をしつらえ、スタジオへ入っていくようなイメージでスタートした
が、計画を進めていくうちに、せっかく自由に防音エリアを設定する事が
出来るのだから、大きな居心地の良い空間にして、そちらに集約しようと
いう事になった。プライベートゾーンとの仕切りには、第二の玄関ドアを
設けている。
スタジオについて、防音技術的には過去3作の経験を生かし、必要な性能
を確保した。ただ今回はレッスンするだけではなく、ここで本を読んだり
パソコン仕事をしたり、接客したり、広さがあるので場合によっては、
ここで他の楽器との合わせなど、様々な可能性を考えて設計した。
本棚は、仕切りを設けず、デスクや飾り棚としても機能するように考えた。
照明は配線ダクトにより、自由なレイアウトが可能である。
フローリングと黒い棚は、色は違うが木目はサクラで統一している。
壁には、他の部屋と同じ薄塗タイプのしっくいを使用した。音はかなり響くようで
ある。
プライベートゾーンは、パブリック、防音ゾーンを引き算して残った空間
という事になる。この中でWCは客用も兼ねるので仕切りが必要である。
さらに就寝スペースも必要に応じて戸を閉めたい。という事で、結局は
中廊下タイプの形状にはなる。しかし今回は空間をフレキシブルに仕切る
為に、天井までの引戸をスライディングウォールのように隅柱無しで設置し
、それぞれの境界を曖昧にした。キッチンもアイランドタイプとした事も
あり、見た目にも広がりのある空間となった。
さて、問題のキッチンの縦排水管であるが、いろいろ考えた挙句に、通常の
PSの形状に囚われず、ステンレスのパネルで覆って丸柱状にしてみた。
下部は大容量の引き出し家具となっており、配管の点検口も兼ねている。
遮音についてもスタジオで使用した素材を使っている。
↑スライディングウォール開状態と閉状態
↑和室(就寝スペース)
今回のリモデル工事は、「音楽の為の空間」が主題となっている。
防音室を造る時に常に考えている事は、過剰でなく、いかに必要な防音性能
を必要な広さだけ確保するかという事である。そしてその室を使う音楽家に
とってそれは楽器でもある。何よりもその空間を使う人が満足するもので
なければならない。
既製品には無い、オーダーメイドの空間を、これからも創っていきたい
と思う。