KYOTO HOUSE-M REMODEL

LAST UPDATE: 2009.04.15

京都M邸リフォーム


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京都市内のマンションの、防音スタジオ付住戸へのリフォームである。 施主は関西を中心に幅広くご活躍の声楽家で、以前から新しい生活と 音楽の為の場所を探しておられた。ところが、一般の新築マンションでは 防音の為の備えが無く、空間の自由度も低い等の理由から、中古マンション を購入して思い通りの空間を造る事を決断された。

依頼の電話をいただき、早速現場を見に行った。 法規上の採光を得るために、隣地境界線に面しコーナーを欠き取ったような L字型をした住戸であったが、隣地には高い建物も無く、見晴らしが良く 明るい部屋だった。3LDKに区切られた間仕切を取り払いさえすれば、 比較的自由な計画が出来るのでは?と思い、現場を後にした。

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しかしいざ資料を整理して、設計してみると、それほどプランに自由度が 無い事が判って来た。まず要望された風水の制約であるが、まあこれは いたしかたない。次に何といっても水廻りの位置の制約だ。配管は多少 振り回せるにしても、上下階を貫くパイプシャフトの位置だけは変えよう が無い。今回の仕事では、このキッチンの縦排水管が一番の難題だった かもしれない。横引き配管を床下に通そうと思えば床も上がるし、 天井裏もダクトやら梁やらで、もともと階高の低いマンションでは、 頑張れば頑張るほどに空間の体積は減っていく。

結局、出来た案の水廻りの位置は、以前のプランとそんなに変わらない。 しかしその中で、空間的に何が出来るのか?という事を考えた。 まず空間のエリア分けである。施主は大学で教鞭を取っておられるが、 自宅にもレッスンの為に生徒さんが来たり、他の来客も多い。そこで L字型プランを生かして、片方のウイングをパブリックに、もう片方を プライベートに分割した。

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パブリックゾーンについてであるが、当初は玄関ホールにサロンのような 空間をしつらえ、スタジオへ入っていくようなイメージでスタートした が、計画を進めていくうちに、せっかく自由に防音エリアを設定する事が 出来るのだから、大きな居心地の良い空間にして、そちらに集約しようと いう事になった。プライベートゾーンとの仕切りには、第二の玄関ドアを 設けている。

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スタジオについて、防音技術的には過去3作の経験を生かし、必要な性能 を確保した。ただ今回はレッスンするだけではなく、ここで本を読んだり パソコン仕事をしたり、接客したり、広さがあるので場合によっては、 ここで他の楽器との合わせなど、様々な可能性を考えて設計した。 本棚は、仕切りを設けず、デスクや飾り棚としても機能するように考えた。 照明は配線ダクトにより、自由なレイアウトが可能である。 フローリングと黒い棚は、色は違うが木目はサクラで統一している。 壁には、他の部屋と同じ薄塗タイプのしっくいを使用した。音はかなり響くようで ある。

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プライベートゾーンは、パブリック、防音ゾーンを引き算して残った空間 という事になる。この中でWCは客用も兼ねるので仕切りが必要である。 さらに就寝スペースも必要に応じて戸を閉めたい。という事で、結局は 中廊下タイプの形状にはなる。しかし今回は空間をフレキシブルに仕切る 為に、天井までの引戸をスライディングウォールのように隅柱無しで設置し 、それぞれの境界を曖昧にした。キッチンもアイランドタイプとした事も あり、見た目にも広がりのある空間となった。

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さて、問題のキッチンの縦排水管であるが、いろいろ考えた挙句に、通常の PSの形状に囚われず、ステンレスのパネルで覆って丸柱状にしてみた。 下部は大容量の引き出し家具となっており、配管の点検口も兼ねている。 遮音についてもスタジオで使用した素材を使っている。


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↑スライディングウォール開状態と閉状態

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↑和室(就寝スペース)

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今回のリモデル工事は、「音楽の為の空間」が主題となっている。 防音室を造る時に常に考えている事は、過剰でなく、いかに必要な防音性能 を必要な広さだけ確保するかという事である。そしてその室を使う音楽家に とってそれは楽器でもある。何よりもその空間を使う人が満足するもので なければならない。

既製品には無い、オーダーメイドの空間を、これからも創っていきたい と思う。