■ 入学試験
2日目課題模型
ウィーンでは一般にはドイツと同じく大学入試というものは無い。そのかわり学生は高等教育を終える時に
「マトゥーラ」という大学入学資格を得る為の試験を受けなければならない。その為大学は入学するよりも
卒業する方が非常に難しい。しかしこれはあくまで総合大学での話であって、美術系の大学など、少人数の
マイスタークラス制を採用する所などは入学試験を行う。
ウィーンで建築を学ぶ場合、美術系のウィーン応用美術大学かウィーン造形美術アカデミー大学、もしくは
工科系のウィーン工科大学の選択をする事になる。美術系の場合各建築家ごとにクラスを持っており、独自
の入試が行われるので、人気のある建築家のクラスは非常に狭き門となる。工科大の場合は入学手続きさえ
すれば入れるが、やはり内部で人気のある建築家のゼミは非常に競争率が高い。
私の場合、最初からウィーン応用美術大学のハンス・ホラインのクラスを希望しており、なんとか入試をパ
スしてもぐり込んだ。以下に2日間にわたるユニークな彼流の入学試験を紹介したい。
ウィーン応用美術大学
マイスタークラス、ハンス・ホライン
1998年 入学試験
面接(1998.09.28)
〜事前にポートフォリオを提出。それまでにも何度も通い、1度だけホラインとコンタクトを取る事が出来
た。当日、ホラインとアシスタントを前にいくつかの質問を受ける。私の場合日本で大学を卒業しているが
ウィーンの大学とのシステムの違いから、卒業資格は取らずにゲストスチューデントとして2年間在籍する
という条件で入試を受ける事などを確認した。もちろん自分の作品についてもアピールした。
試験第1日(1998.09.29)
試験問題
1)9:00-10:00 (何も見ず)思い出して描きなさい
- タージ・マハール
- ビルバオ/グッゲンハイム美術館
- リオデジャネイロ/キリスト彫像
- シドニー/オペラハウス
- パルテノン神殿
〜試験当日用意するものは「スケッチブックと絵の道具」とだけあり、絵の道具であれば何を持ってきても
構わない。そして試験開始後配られた1枚の白い紙には小さく上記の条件だけが書かれていた。皆最初は戸
惑っていたが、とにかく何かを描いて提出しなければならない。必死で思い出して描いた。アイデアスケッ
チを持ち帰り、後から本物の写真と見比べた時には大笑いした。
2)10:00-10:30 アルヴァ・アールトについて書け
3)10:30-11:30 (何も見ず)思い出して描きなさい
- F1カー
- デスクトップコンピューターとモニター
- グランドピアノ
4)11:30-12:00 将来の建築家像(職能)について書け
〜最初はお絵かき大会で始まったが、2)、4)などは本当に高校を出たばかりの学生に十分な回答が出来る
のだろうかと疑問に思ってしまう。しかし後に学生と話をする中で、かなり皆早くから建築家への意識が高
く、自分の考え・展望を持っていた事に驚いた。
昼休み後、「13:30に市内のブルグ劇場前に集合」とだけ告げられ、解散した。
------- 昼休み -------
5)13:30-15:30 ブルグ劇場周辺の好きな建物をスケッチせよ
(15:30 大学の試験場集合)
ウィーン市庁舎
〜この近辺はウィーンの中心部の中でも最も代表的建築物が多い場所である。私はブルグ劇場の向かいのウ
ィーン市庁舎をペンと水彩で描く事にした。
6)15:30-18:30 「シシーの車」をデザインせよ
(スケッチを提出)
〜シシーとはウィーンで今でも人気の高いかつての王妃エリザベートの事であり、今回オーストリアがリオ
のカーニバルに出走する舞台付の車を考案するというものであった。
以上で長い長い入試第1日目が終わった。2日目は9:00集合と言い渡されて帰宅。
試験第2日(1998.09.30)
1)9:00-16:00 1日課題「ツーリスト・インフォメーション」
- 敷地:市庁舎裏の小広場(フリードリッヒ-シュミット広場)
- 用途:ツーリスト・インフォメーション
- 所要室:ツーリスト・インフォメーション+カフェ
- 建物構造規模:自由
- 提出物:図面(ドローイング)、模型
〜1日目の疲れを引きずりながら9:00に大学に行くと、アシスタントが黒板に「ツーリスト・インフォメーシ
ョン」とだけ書いた。そして最小限の上記の条件だけを伝えられ、また解散状態になった。私は1日の大まかな
時間配分だけを考え、早速現地を見に行った。
敷地図
現地で地下鉄の出口からの動線を考え、直感的に配置を考え、建物のイメージを組み立てた。何せ時間がない。
そのイメージを地下鉄でふくらませながら、次は画材店に行き模型材料を買う。正直なところこの模型材料に
建物がかなり左右された。いかに成果品が単純で効果的に見えるかを考えたからだ。
午前中でアイデアスケッチを固めた。昼食は画材店の帰りに買ったパンをかじり、午後からまず製図に取りか
かった。このあたりは日本での実務の要領である。そして図面のコピーを取り、模型の制作へ。作りながら当
然気に入らない所が出てきて、また図面を修正、また模型を作り、を繰り返した。
模型写真
時間いっぱいになり作品を提出して、やっと滞り無く入試日程を終えた。まったく何とも濃密な2日間で本当
に疲れた。と同時にとても楽しい入学試験だったとも言える。少なくとも私は楽しんだ。
日本でも、どこでも同じような学力試験以外にこのような試験があっても良いのではないだろうか?
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